王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
すっと伸びてきた手に髪を一掬いとられ、肩が跳ねる。
びくっと反応した私を見る男の人の瞳は青色に光っていて……気付けば今までの穏やかな雰囲気が消えていた。
張りつめているように感じる空気に、ドクッと胸が不穏な音を立てた。
「そんなにあいつが心配? 妬けるな」
手にとった、腰まで伸びた長い髪に唇を寄せる男の人に、身体がカタカタと細かく震え出す。
私は今まで、異性は国王と兄弟、ガイルとしか接したことがない。
国王や兄弟となんか数回顔を合わせただけだし、ガイルはこんな風に私に触れることはなかった。
だから……今、女として見られていることが男の人の瞳からわかった途端、どうしていいのかわからなくなってしまう。
「ガイルは……私を守ってくれた騎士です。心配するのは当たり前でしょう」
それでも震える声で言うと、男の人はまた半歩距離を縮める。
爪先同士がぶつかりそうな距離に困り俯こうとした瞬間、顎を掴まれくいっと持ち上げられる。
さっきまで持たれていた髪がパラリと胸の前に落ちた。
強引に合わされる瞳に、緊張からか胸がうるさい。
「じゃあ、俺がクレアを守ったら俺のこともあいつと同じように心配してくれるの?」
私は、こんなに色気を帯びた声を聞いたことがない。
耳に毒なほど甘く響く声に、呼吸が震えていた。
吸い込む空気さえ甘さを含んでいるように感じるのは、気のせいだろうか。
「あなたが、私を守る理由はないハズです」
「なくはないよ。俺、クレアのこと気に入っちゃったし」
じりじりと近づいてくる男の人から逃げようと一歩後ずさると、腰に手を回されそれを止められる。
グッと抱き寄せられると、もう逃げ場がなくて……端正な顔を見つめる以外できない。
恐怖からじゃない胸の高鳴りが、身体中に響いていた。