王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「そんな発言は、王室付きの騎士としてはあまりよくないと思います。私を誰だかもう一度考えた方が――」
「ああ、そうだ。自己紹介がまだだったね」
話を聞いてくれない男の人に眉を寄せると、にこっと瞳を細められた。
「俺は、シオン。……呼んでみて」
そんなことを、こんな至近距離から催促されても困る。
だからぐっと黙り目を伏せると「クレア」と、催促するように名前を呼ばれ……その声が乗せる甘さに惹きつけられた自分に気付いて唇をキュッと結ぶ。
そして、睨むように見上げながら小さな声で「……シオン、さん」と呟いた。
「うん。なぁに?」
いったい、なんのやりとりなんだ。
嬉しさをめいっぱい広げたみたいな顔をするシオンさんに急に恥ずかしくなって、慌てて腕の中から抜け出そうとするも、さっきと同じようにシオンさんの腕に止められる。
「クレア。もう一回呼んで」
「嫌です。あんなくだらないやり取りひとりでやっててください……っ」
「それじゃ俺が馬鹿みたいだし」
私が抵抗しているっていうのに、それを軽々と押さえつけてハハッと呑気に笑うシオンさんを睨みつけると、唇に親指で触れられる。
初めてされることに驚くと、むにむにと軽くそこを押しながらシオンさんが意地悪に瞳を緩めた。
「どうしても呼んでくれないの?」
しっとりとした色気を多分に含んだ声は、まるで脅迫みたいだった。
唇の上を撫でる親指が、くっと下唇を軽く押すとびくっと身体が揺れた。
このまま口の中に指が入ってきたらどうしようって焦りに襲われ、困惑して見上げると、にこっと微笑まれる。
「どうかした?」
どうかしてるのは、シオンさんのほうだ。この人やっぱり変態なんじゃないだろうか。
「……ん?」
未だ唇の上を這う親指が、横に動いたり、イタズラに奥に進むような動きを見せたりとするものだから、その恥ずかしさに耐えきれなくなって白旗を上げる。
もう、限界だ。精神的にも、胸のドキドキも――。