王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「シオンさん……っ」
「……ん。よくできました」
目をギュッと瞑り名前を口にすると、すぐにそんな言葉が返ってきて……そして、親指が離れたと思い胸を撫で下ろした瞬間。
むにっと、指とは違う感触を感じた。
目を開けても近すぎて焦点が合わなくて、それが、目を瞑ったシオンさんだってすぐには気付けなかった。
でも、二度三度パチパチと瞬きをしているうちに、唇をペロッと舌で舐められたことに気付いてハッとする。
「な……っ、なに……」
ドン、と胸を押すと、シオンさんは動かなかったのに、私がその衝撃でうしろによろけてしまい、転びそうになったところで「おっと」と腕を掴まれる。
すぐにその手を振り払い、ギッと強く睨みつけた。
「今っ、私になにを……っ」
「その反応だと初めてだったんだ。よかった。もしかしたらあいつとそういう関係かと思ったから」
軽く笑って言うシオンさんに声も出せない。
だって今、この人私に……。
「ああ、そうだ。さっきの話だけど、無償で力を貸したっていうのは少し違う。テネーブル王国の革命派のヤツらが、あまりに上手い話すぎると逆に信用できないって言うから、王宮にあるものなら報酬代わりに持ち帰っていいって話でまとまったんだ。盗賊みたいだけど、現物支給っていうかそんな感じ」
急に戻った話に頭がついていけずに困惑していると、シオンさんが意味のありそうな笑みで続けた。
「俺は、特に欲しいものもないし、もらってくるつもりはなかったけど……考えが変わった」
思い当った考えに青くなればいいのか、赤くなればいいのか、わからない。
「まさか、こんないいものが手に入るなんて思わなかった」
事態についていけず、呆然としてしまう。
伸ばした手で再び私の髪をとり、そこに鼻をうずめるシオンさんの手を、振り払おうとすら思えなかった。
高い塔の上に幽閉され続けて十八年。
連れ去られたと思ったら、とんでもないことになりました。