王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「落ち着こう。大丈夫。直面してから考えればいい」
自分に言い聞かすようにわざと声に出し、はぁ、と息を吐く。
恐怖を感じ取った心臓がドクドクと嫌な音を立てているから、胸の前でそっと手を握りしめた。
肩にかけていたショールがぱさりと床に落ちたから、それを椅子に座ったまま拾い上げ……白いレースのショールに視線を留める。
着の身着のまま連れてこられたから、着替えなんて用意していなかった。
でも、着替えが欲しいなんてことも言えるハズもなくて黙っていたのに、シオンさんはそんなことお見通しみたいな顔をして、すぐさま用意してくれた。
『クレアは肌の色が白いし、濃い色も淡い色も似合うと思うんだよね。でも、デザインが派手なものはあまり好きじゃなさそうだからと思って、選んでみたけど……どう? 気に入った?』
シオンさんがキラキラした笑顔で持ってきてくれたのは、色とりどりのドレスだった。
淡いピンク色や黄色、黄緑色。シオンさんの瞳と同じ青色もあった。
『……着られればなんでも構いません。……が、高価そうに見えるんですが、こんなドレスを私が着て大丈夫ですか?』
まるで王族が身に着けるようなドレスに、捕らわれの身である私が袖を通すのはどうだろうと不安になり聞くと、シオンさんは軽く笑った。
『大丈夫もなにも、クレアのために用意したものだし。ただ、時間がなくて急きょ用意したものだから、サイズが少し合わないかもしれないけど……すぐにクレアのサイズにぴったりのものを注文して仕立てさせるから』
『仕立てさせるって……それも、王子の命ですか? あの、王子は一体なにを考えて……』
『あ。そうだ。今サイズ計っちゃおうか。クレア、恥ずかしくないからドレスを脱いで俺に身を預けて――』
『きゃぁあっ! どこ触ってるんですか……っ!』
ウエストを撫であがってきた手に、咄嗟にグーが出てしまい、それがシオンさんのお腹に入ってしまったのは昨日の朝のことだ。