王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
あの人は……なんでああも緊張感がないんだろう。
シオンさんの笑顔を思い出すと、気が抜けてしまう。
もっとも、普段あんな感じなのはシオンさんが意図的にしていることなのかもしれないけれど。
なんとなくだけど、シオンさんは、空気をやたらとしっとり重くしたり、緊張感を持たせたりと、雰囲気を操ってる気がするから。
「騎士って言ってたけど……」
ガイルとはあまりに違く思え、色んな騎士がいるんだなと感心していると、コンコンコン、とノックが響きドアが開く。
見ると、シオンさんが入ってくるところだった。続いて運び込まれたのは今日の朝食だろう。
焼きたてのパンの匂いが部屋に広がる。
ソファに座って考え事をしていた私に近づいたシオンさんがにこりと微笑む。
無意識にホッとしたのは……パンのいい匂いになのか、それともシオンさんの存在になのか。
「おはよう、クレア。よく眠れた?」
シオンさんは、腰を折って私の耳の上あたりの髪に鼻を埋める。
最初は抵抗があったけれど……もう三日目となれば注意する気も起きなかった。
人の髪の匂いを嗅いでなにが楽しいのかわからないけれど、色んな趣向の人がいるんだろうと片付ける。
天は二物を与えずっていうくらいだし、シオンさんは完璧な外見と引き換えに少し残念な趣向になってしまったに違いない。
「おかげさまで。ふわふわしたベッドにもやっと慣れました」
与えられたベッドは、おかしいんじゃないかってほど柔らかくて横になると身体が沈むものだから初日は慣れなくて眠れなかった。
それでも二日目の昨日はようやくその不安定さにも慣れ、眠りにつくことができた。