王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


「このベッド、そこまで柔らかいわけでもないと思うんだけど……。クレアは硬めの方が好み?」

髪の匂いを嗅いで満足したのか、シオンさんはベッドまで行くと布団を手で押し弾力を確かめる。

「そういうわけじゃないですけど……これまで使っていたのが硬いものだったから、慣れないだけです」

言った途端、「そっか……」とシオンさんが沈んだ声を出すから、ため息をつく。

「別に、私は不自由な思いをしてきたわけじゃないですから、いちいち不憫に思うのはやめてください。硬いベッドだって不満に思ったこともなかったし快適でした」

眉を寄せ言うと、シオンさんがハッとした顔を浮かべてから「ごめん」と謝る。
それから「朝食にしようか」と明るく笑った。


テーブルの上に並べられたのは、サラダにベーコン、卵料理にコーンスープ、そして焼きたてのパン。

ここに来て三日目となるけれど、料理の種類がたくさんあることにはまだ慣れない。

あの塔では、スープとパンが大量に出されるだけだったから。

敵か味方かもわからないここでの方が、衣食住すべてが豪華だなんておかしな話だ。

ひと口大にちぎられたレタスを口に入れると、瑞々しさが溢れる。
生野菜はここに来てから初めて口にしたけれど、触感が新鮮でとても気に入っている。

自然と「おいしい」と言葉がこぼれ、それをシオンさんに微笑まれたから、バツが悪く感じてすっと目を逸らした。

「そういえば、ガイルだっけ。クレアと一緒に連れてきた騎士」

サラダを食べながら言われうなづく。

「はい」
「あいつ、脅威の回復力で怪我はもうそこまで痛まないって。だから、クレアが望むなら顔を合わせて話せるように場を設けるよ。もちろん、逃げるって可能性もなくはないから第三者も立ちあわせてって感じになるけど……どうする?」

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