王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


「まぁ、そうじゃないヤツもいることにはいるけど。俺の場合は、その本の通りだよ」

ニッと弧を描いた口元に、ドキリと胸が跳ねる。
この人は、急に色っぽい表情を浮かべるから困る。見るたび驚いて心臓が騒がしくなるから。

「そうですか」

真面目に受け取る必要はないんだと自分に言い聞かせながら返事をすると、シオンさんが言う。

「俺は、好きな子が苦しんでいる顔を見て喜ぶような趣味はないし、できたらいつでも笑顔でいさせてあげたい。だから、クレアの態度次第ではさっきも言った通り、自由だって与える」
「私の態度次第……?」

引っ掛かりを感じて聞いた私に、シオンさんは優しく目を細める。

「簡単だよ。俺を好きになればいい」
「……はぁ」

朝から眩しいほどの笑顔で言われ、パチパチと瞬きをしてからそう返事をする。

シオンさんは私の反応が予想外だったようで、驚いたように「え。それだけ?」と眉を寄せた。

「いえ。色々思うことはあるんですけど、頭がついていかないんです。拷問されるわけでもなく衣食住を与えられ戸惑っていたら、今度は好きになれと……いよいよ夢かと思ってきました」
「夢ならさっき見終わったハズだけど。そのベッドで」

ふわふわの柔らかいベッドを視線で示すシオンさんをじっと見て……持っていたフォークをお皿に置く。

「出逢って数日しか経っていない相手にそんな気持ちになるなんて、夢だとしか思えません」
「そうかな。人の感情がどう動くかなんて自分にだって予想できないものだと思うけど。実際、俺はそうだったし」

最後、言葉に含みを持たせたシオンさんが、意味ありげな笑みを浮かべるから、ひとつため息を落とした。

シオンさんの言っていることはわかる。
私は恋をしたことはないけれど、時間をかけて育む恋もあれば、一瞬で燃え上がる恋もあるんだろう。

だから、シオンさんの言葉自体を否定する気はない。ただ……。


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