王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「俺はさ、身分とか立場とか、そんなもんで人間を計るのは好きじゃないし、間違ってるとも思う。だから、テネーブル王国の革命派に力だって貸したわけだし」
食事を終えたシオンさんが、食後にと使用人の方が淹れてくれた紅茶に手を伸ばす。
そして、白いカップに口を付けながら言う。
「でも、クレアを見てると、姫って立場がぴったりだと思う。芯があって優しい」
「私は姫でもなんでも……」
「だから、やっぱり俺はクレアが気に入ってるし、こうして一緒に過ごすたびに惹かれるし、そこは嘘つけないしつく気もない」
さっき言ったことを否定するシオンさんに思わず顔をしかめると、笑顔を返された。
「でも、俺の立場を考えてくれてありがとう」
「だから、その立場をもっとシオンさん自身が大事に……」
「あ、そうだ。紹介するよ」
わざとなのか、さっきから私の言葉を最後まで聞いてくれないシオンさんにムッとしていると。
彼は、部屋の隅に立っていた使用人の方をテーブル近くに呼ぶ。
私と同じ歳くらいの女の子で、綺麗な顔立ちをしていた。
赤茶色の髪は肩の上で切りそろえられていて、瞳はシオンさんと同じ青色。
足元まである黒のワンピースに白いエプロンっていうのが、ここの女性使用人の制服らしい。
「彼女は、ジュリア。これからクレアの周りの世話を任せることにしたから、なにか不便なことがあったらなんでも言って」
そう紹介されたジュリアさんがにこりと微笑む。
「ジュリアです。私は基本的にクレア様の近くにいますので、なんでもお申し付けください」
「……よろしくお願いします」
身の周り……といっても、私は今まで使用人になにかをしてもらったりしたことがないだけに、一体なにを頼めばいいんだろうと考えたけれど。
早い話が見張り役なのかもしれない、と納得する。
騎士であるシオンさんがずっとここで私を見張るわけにはいかないから、代わりに……ということなんだろう。
これも、シド王子の命なのだろうか……。