王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「じゃあ、俺はそろそろ午前の任務につかないとだから。名残惜しいけど」
立ちあがったシオンさんは、椅子に座ったままの私に近づくと手をとり、その甲に唇を寄せる。
これももう、この人のクセなんだろうと諦めた。
私は今まで母とガイルくらいしか親しく接していないから比べようがないけれど、シオンさんは、たぶん、他人との距離感がものすごく近い人なんだと思う。
人柄も軽い……というか、やたらと友好的だし。
一度だけだし、きっと深い意味なんてないんだって思い込みたくて考えないようにしてたけど……口にキスだってされたし。
まぁ、国が違えば、色々変わるものなんだろう。
いちいち、驚いて抵抗するんじゃなくて、こういう人なんだと受け入れなきゃ。
私が思う常識や普通なんて、あの塔のなかで、ごくわずかな人間を見て築き上げたものなんだから、それを基準にしてはダメだ。
数年前、病床で、母が言っていたことを思い出す。
『自分が本当にツラくて仕方なくなったら、そういうものなんだって簡単に片付けて受け入れちゃいなさい。間違っても、考えすぎて〝自分のせい〟なんて結論を出さないで』
『楽観的って言うんでしょ? 本に載ってた』
得意げに言った私に、母は嬉しそうに笑った。
『よく知ってるわね。そう、楽観的にね。どうか、あなたの置かれた立場を重く捉えすぎないで。少しでもたくさん、幸せになって』
〝お母様こそ〟と言いたくなったのを呑み込んで『うん』と答えたのは、母は私が頷くことを望んでいるんだってわかったからだった。
安心したように微笑んだ母を、今でもしっかりと覚えている。
楽観的に……か、と高い天井に母を映し考える。
母が私のこの状況を見たら、なんて言うだろう。
あの塔から解放されたことを喜ぶだろうか……そして、楽観的に捉えろって言うだろうか。