王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「夕食のときにまた」
そう微笑んだシオンさんが、部屋から出ていく。
その後ろ姿をぼんやりと見つめていると、「おすみになった食器をおさげしてもよろしいでしょうか」と聞かれ、振り向いた。
「はい。お願いします」
「では、失礼いたします」
ジュリアさんが、シオンさんが使った食器をワゴンにのせていく。
それを手伝おうと席を立とうとすると「クレア様は、ゆっくりとなさっていてください」と止められてしまった。
「でも、自分で使ったものを自分で下げるのは当然ですし……誰かにしてもらうのは落ち着かないんです」
「そうは言っても、シオンさんは許してくれないと思いますけど」
苦笑いで言われ、その態度に接しやすさを覚える。
今まできてくれていた使用人さんは、私との間に引いている一線が見えるようだったけれど、ジュリアさんは少し違うように感じた。
「シオンさんって、ずいぶん明るく友好的ですけど……いつもあんな感じなんですか?」
目の前の食器が片付けられていくのを見ながら聞くと、ジュリアさんは「んー」と首を捻る。
「まぁ、明るいは明るいですけど……基本的に人懐っこいし。友好的っていうのも、外面だけで判断するならそうでしょうね。誰にでも同じような態度と笑顔で接してますから」
「それは……どんな折り合いの悪い人が相手でも、という意味でしょうか」
誰にでも、というのは、自分がどんなに嫌いな相手でも、その感情は見せずに笑顔で接すると、そういう意味だろうか。
ジュリアさんはじっと私を見たあと「ですね」と短く答えた。
その声が慎重さを含んでいるように思え、そこにこめられた重みみたいなものを感じた。