王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


〝折り合いの悪い相手〟という言葉に、テネーブル王国の国王や王妃、そしてそのこどもである王子や姫たちを思い出す。

何度かしか顔を合わせたことはないけれど、私や母に、まるでゴミでも見るような見下した眼差しを送っていたっけと。

私は幸いなのか、その人たちと話す機会も本当にごくわずかに限られていたから、笑顔を取り繕う必要もなかったけれど……シオンさんの場合は違うんだろう。

騎士ってなれば騎士団に所属しているんだろうし、大勢いれば、誰かしらどうしても折り合いの合わない人が出てきてもおかしくはない。

王室付きってことは王宮で暮らしているわけだし、このグランツ王国がテネーブル王国ほど立場にものを言わせない大らかな考えを持つ国だとしても、人間同士が関わっている以上しがらみはあるハズだ。

今まで自分自身が極度に他人と接する機会を持ってこなかっただけに、〝折り合いの悪い相手〟と言っても想像するしかできないけれど……相当苦痛ではあるんだろう。

なのにあの人は、私の前では疲れた顔ひとつ見せないでいつもニコニコしているのか……。

私なんかが相手でも、そういう暗く重たい部分は隠してくれているのか。

「そうなんですね……」

声が沈んで聞こえたのか。
ジュリアさんは、困ったように笑う。

「クレア様が心を痛める必要はありませんよ。まぁ……シオンさんは立場もあるから、他の人よりも色々面倒なのは確かですけど、そんなにヤワじゃありませんし」
「立場……王室付きの騎士ってことですか?」


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