王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


「しかし、おまえ相当気に入られてんだな。ドレスとかこの部屋用意したのってシオンだろ?」

ガイルが当たり前のようにシオンさんの名前を出したことに驚くと、それに気付いたガイルが説明する。

「見張りって意味だと思うけど、シオン、俺んとこにも一日に一度は顔出して話してくんだよ。怪我の痛み具合とか、剣の話とか……まぁ、ほとんどはクレアの話だけど」

「私?」
「そ。クレアは今までどう育ってきたかとか、他の王族とはどう接してたかとか……あと、俺とクレアが本当に恋愛関係じゃないのかとか。
俺にとっては大事な家族みたいなもんだって言ってもどうも納得しねーんだよな、あいつ」

背もたれに背中を預け天井をあおいだガイルが、あばらに走った痛みにか、少し顔をしかめる。

だから、「気を付けてよ」と心配から顔をしかめていると、それまでただ傍観していたジュリアさんが言う。

「あの人、少し育った環境が複雑だから他人同士を結ぶ情みたいなものが理解できないんですよ。だから今まで、どんなに想いを寄せてくれる子がいても冷たく切り捨ててきたみたいです」

壁際に立ったまま淡々と言われた言葉に驚く。
だって……とてもじゃないけど、そんな風には思えなかった。

あんな柔らかい表情を浮かべられる人が、しっとりとした優しい声で話す人が、女の子を冷たく切り捨てるなんて……嘘だとしか思えない。

「でも……シオンさん、優しいですよね? 趣向とか少しおかしな部分はありますけど、いつも気にかけてくれますし私が言葉にしない部分まで気を遣ってくれて……」

「ですから言ったでしょう。クレア様への態度は別だって」
「……それこそ、何度も言ってますけど、私は五日前に初めてシオンさんに会ったんです。そんな私に情が注げるなら、どんな子が相手だって優しくできると思います。
私を可哀想だと思ってただ同情しているっていうなら、話も分かりますが」

紅茶のカップを口に運びながら言うと、ジュリアさんは一拍あけてから言う。


< 46 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop