王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
母と私が住み始めてからは、ひとつ下の階に水も引かれたから、すべてのことがここで出来るようになった。
早急になされた環境づくりは、私たちをここに幽閉し王宮内には決していれないようにという意味だったんだろう。
第三王妃とされながらも、母が亡くなったとき、看取ったのは私とガイルだけだった。
ここに幽閉されている理由は簡単だ。
宰相の娘である第一王妃、侯爵の娘である第二王妃とは違い、母は平民だった。
本来なら顔を合わすこともないような立場の母が第三王妃となったのは、国王がたまたま母を一目見て気に入ったからで、早い話が国王の気まぐれだ。
本来なら、ありえないことで、それを国もよく思ってはいなかった。
王族の血筋をなによりも大事にするこの国にとって、そこに平民の血が混ざるなんて許せないことだったらしい。
だから、母と私の存在は、周りに隠されるようにここに幽閉されたというわけだった。
勝手な話だ。
「いや、偏見じゃねーよ。王宮にいるおまえの腹違いの兄妹なんかすげーから。わがまま三昧贅沢三昧で、傍付きの兵士とたまに顔合わせると相当疲れ切ってる感じだし。
その点おまえは……ああ、でも、頑固ではあるけど。意固地っつーか。俺が王宮で暮らせるように話つけてやるって再三言ってんのに頷かねーし」
窓際に立ったまま外を見て笑うガイルに視線を移す。
私よりも六歳年上だって話だけど、その横顔からはあどけなさが覗いていた。
赤茶色の短髪の下にあるのは、髪と同じ色の瞳。充分、端正って言える顔立ちをしているのに恋人がいないっていうんだから不思議な話だ。
「だって、ここでの生活に不自由してないし。ねぇ、ガイル。そんなことより、まだ恋人できないの?」
手を止めて聞いた私を振り向いたガイルは、キョトンとした顔をしたあと苦笑いを浮かべる。