王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


「中庭は国民に解放しているんです。もちろん、警備は立てますが、自由に花を楽しんでもらうようにと何代か前の王からの命で。もう、五十年以上前から続くことのようです」
「……平和なんですね」

テネーブル王国は、王宮内に平民が入ることなんて、何かの修理以外ではなかった。
平民の人に楽しんでもらうなんて考えはなかった。

グランツ王国の王や王子の国民を思う気持ちを見る度に、胸が温かくなる。
思い描いていた国の形がここにある気がして。

「あの……シド王子もこの王宮で過ごしてらっしゃるんですよね?」

ずっと不思議に思っていたことを口にすると、ジュリアさんがうなづく。

「はい。そうですけど……ああ、一度も顔を見せにこないからですか?」
「私をここに置いているシド王子がいったいどんな方なのか気になって……もし、お話する機会があるなら、私をどうするつもりなのかも伺えたら、と」

私の声に緊張が混ざっていることに気付いたのか、ジュリアさんは同情するように微笑んだ。

「たしかに、言ってみれば敵国ですものね。生かしたままここに閉じ込めておくなんてどういうつもりなのか、気になりますよね。でも……申し訳ないんですが、シド王子とお会いしていただくことはあったとしても、まだ先になるかと」
「……そうですか」

普通に考えて、シド王子が私と会う理由はないのはわかる。
シド王子や王なら、わざわざ会いにくるまでもなく、命ひとつで私をどうすることもできるのだから。

つまり……ただの気まぐれで生かされているだけなんだろう。でも、だとしたらこの待遇はなんだろう。
ガイルの怪我まで治してくれて……。

わからないことだらけだ。



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