王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「あのね、最近できた僕のお友達もこういうの持ってたの。いつも、綺麗なお姉さんがパンと一緒にハンカチくれて、そのおかげでご飯が食べられてたんだって言ってた」
笑顔で言う男の子の言葉に、塔でのことを思い出し一瞬声を失う。
「お友達……?」と思わず呟くと、男の子がうなづく。
「国と国の間にある線がなくなったから、この国に来たんだって言ってた。前は隣の国で暮らしてたんだって」
「ああ……そうなんだ」
テネーブル王国は、今はグランツ王国の支配下。となれば、国境もないし自由に行き来できるようになったことになる。
その子の家族はきっと、グランツ王国で新しい生活を始めたってことなんだろう。
でも……そうか。無事だったんだ。
「よかった……」
ぽつりとつぶやくと、男の子が「あのね」と話しかけてくる。
「その友達、パンとかハンカチをくれたお姉さんを探してるんだって。名前とかわからなくて顔しか知らないけど、お礼を言いたいって」
「え……」
「お姉さんのこのハンカチ、誰にもらったの? もしかして、そのお姉さん?!」
大きな瞳が太陽の光を受けてキラキラと輝く。
いつの間にか穏やかになった風がさわさわと花を揺らしていた。
「ううん。違う。これは……このハンカチは、私も別の人からもらったものだから、わからないの」
「そっかー……」
残念そうに眉を下げ口を尖らせた男の子の手をとり、目を細める。
「でも、そのお姉さんは今頃、幸せに暮らしてると思う。だから、そのお友達に伝えてくれる? もうこれ以上探さないでいいって」