王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
もしも、あの子が探しているのがテネーブル王国の王族だと周りに知られた場合、どうなるかわからない。
あの子と同じように、テネーブル王国からグランツ王国に移動してきた人たちもいるだろうし、もしもその人たちの耳に入ってしまったりしたら……私がここにいるとバレてしまったら。
革命派の人たちは、ここに乗り込んでくるかもしれない。
――テネーブル王国の王宮に攻め入ってきた、あの日みたいに。
「その子に、伝えられる?」
手をギュッと握りながら言うと、男の子は一拍空けてからコクンとうなづいた。
「わかった! お姉さん、キレイだから約束してあげる。友達に言っとく」
「ありがとう」
なにか大きな仕事でも任されたみたいに、「任せて!」と意気込む男の子にクスクスとしながら「ところで、ここに用事があったんじゃないの?」と聞く。
すると男の子は「そう!」と真面目な瞳で私を見た。
「お母さんがね、熱出して……だから僕、お花をあげたくて、それで……」
じょじょに小さくなっていった声と比例して、男の子の顔からも元気が消えていく。
「そう……心配だね。ここのお花、お母さんが好きなの?」
「うん。いつも色んなお花がきれいに咲いてるから、よく一緒に見にきてる。でも……せっかく咲いてるのに、切ったら可哀想だよね……」
難しい選択に、男の子と同じように顔をしかめる。
優しい理由でお花が欲しいなら、少しくらいなら切ってもいいと思う。
でも、そもそもここは私が自由にしていい場所じゃない。
〝大丈夫だよ〟と言ってあげたくても、その権限がない。
だから、どうしよう……と考えていたとき、男の子の後ろに、走ってくるシオンさんの姿が見えた。