王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「ごめん。衛兵があの子から花が欲しい理由を聞いて、わざと気付かない振りして侵入させたらしい。大丈夫だった?」
男の子を衛兵に任せたシオンさんが、私の肩にストールをかけながら聞くからうなづく。
「いえ。大丈夫です。そういう事情でここに入れたなら安心しました」
「うちの衛兵はそこまでザルじゃないよ」
苦笑いで言うシオンさんに、笑みを返す。
「それに、あの子が花束を手に入れることができてよかったです。……優しいですね」
衛兵から事情を聞いていたシオンさんは、男の子を帰す前に花束を作って渡していた。
『お母さんを大事にしろよ』って、頭をぐりぐり撫でながら。
その様子を思い出し言うと、シオンさんが「惚れてくれた?」なんて妖美に微笑むから、それは無視する。
「でも……すみません。国民の方の楽しみを私がわがままで奪ってしまってるんですよね」
これまでは、日があるうちはいつでも出入りできていたのに。
申し訳なくなって言うと、シオンさんが困り顔で微笑む。
「んー……でも、一時間や二時間ならなんの問題もないと思うよ。ここの庭はたしかに花の種類も豊富で綺麗だけど、正直、クレアほど花を珍しがる人もいないしね。
中庭の解放を始めた当初は賑わってたって話だけど、最近は人もまばらだったし子どもの遊び場状態だったから」
ははっと笑うシオンさんの言葉に、ここを走り回る子どもの姿が浮かび自然と表情が緩んだ。