王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「いいですね。王家のお庭でも、国民が自由に出入りできるなんて……理想の世界です」
広く美しい中庭を眺めながら言うと、シオンさんがふっと笑ったのがわかった。
「衛兵のやつらには、大変だって怒られるけどね」
「そうやって軽口を叩きあえる関係も素敵です。私のところは、兄妹間でさえピリピリしてましたから」
真っ直ぐに中庭を見つめていると、シオンさんに手を握られたけれど……温かい手を振りほどく気にはなれずに、そのまま受け入れる。
この人の手は、いつも温かい。温かくて、優しい。
「末っ子なんて可愛いもんだと思うけどね」
穏やかな声で言われ、しばらくしてから口を開く。
「王家の血筋に、平民の血が混じることが許せなかったんでしょうね。血筋をとても大事にしてましたから」
何を大事に思うかは、人それぞれだ。
王家の純粋な血筋を何よりも大事にするのも、わからなくはないことだ。
それが長く続いてきたのなら、余計に。
「でも、母も私も、ずっと、国のそういう部分に疑問を覚えていたからよかったです。きっと今、テネーブル王国のみなさんは笑えているんでしょうね。ありがとうございます」
変わるきっかけをくれたのは、グランツ王国だ。
テネーブル王国だけだったら、情けないけれど変えることなんてできなかった。
だから、隣を見上げてお礼を言うと、シオンさんは私をじっと見つめた。
「クレアは?」
「え?」
「クレアは、人の心配ばっかだけど……自分はいいの?」
真面目な顔をして聞いてくるシオンさんに、ふっと笑みをもらす。
「私も、幸せですよ。こんな広くて素敵なお庭を独り占めできて、これ以上の幸せなんてないですから」
目の前に広がる、色とりどりの花。
頬を撫でていく風。突き抜けるような青空。……そして、それを身体で感じられる今。
これ以上の幸せなんてない。