王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


「おまえ、またその話か? お年頃ってやつ?」
「だって、本の中でしか恋愛を知らないから。実際に本の通りなのかなって気になるでしょ」

読んだ小説の中に、恋に堕ちる描写はたくさんでてきた。
でも、経験したことのない私にはそれらの感情が本当に湧き上がるものなのか分からない。

だから、一番身近にいるガイルに聞いてるっていうのに、私が何度聞いても、ガイルはまともに答えてくれたことがない。

むっと口を尖らせていると、それを笑ったガイルがこちらに近づき、私の向かいの椅子を引いた。

「まぁ、たぶん、おまえが読んだ本みたいに綺麗な恋愛ばっかりじゃねーかもな。お伽話には出てこないようなモンも街にはゴロゴロしてる」
「そうなの?」

ガイルがしてくれる、外での話は楽しい。
だからテーブルに身を乗り出すと、それに苦笑いしながらガイルが続ける。

「娼婦だとか情夫だとか。一時の情を欲しがるヤツも結構いるみたいだ。この間、酒場で知り合った騎士がいるけど、そいつ、すげー美形なんだよ。女が見たら放っておかないだろうなって俺が見てもわかるくらいに」
「へぇ……。ガイルがお酒飲みに行くとか珍しいね」

いつもは、お酒が入ると剣が鈍るって言ってるのに……と思い言うと、ガイルは椅子に座りながら、少しだけ目を伏せ「まぁ、たまにはな」と笑う。

「で、そいつが言ってた。この世界に本物の愛情なんてないんだって。みんな結局自分が一番大事なのに、口先だけで〝愛〟だのなんだの押し付けがましく言われて嫌気が差すって」

「……捻くれてない? その人」
「いや、別にそうでもないだろ。おまえもわかってるだろうけど、身分とか地位っていうもん目当てに近づいてくるヤツだって結構いるんだよ。王族とか、そこまでいくと特に」

なんとなく言っている意味がわかって黙る。

想像でしかないけれど、この国では身分や地位が絶対的なものを持つ。でも、努力だけでそこまで成りあがることは難しいから……って意味だと思う。

宰相とか貴族とか、そういう立場を目的に近づく人も少なくはないんだろう。
早い話が、立場の高い人と情を交わしたり、結婚できたりすればその人の生活は一気に変わるから。

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