王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「なんか、気が抜けるよな」と、ガイルがもらしたのは、グランツ王国にきて二十日が経った頃だった。
もう何度目になるかわからない面会中に、本当に気の抜けたような笑みで言われた言葉の意味は、私にもわかった。
連行された身なのに、この待遇……ということを言いたいんだろう。
テーブルには、温かい紅茶と焼き菓子が並んでいて、部屋の壁際には相変わらずジュリアさんの姿があった。
ガイルが紅茶をすすりながら言う。
「俺んとこにも見張りが立ってるんだけどさ、そいつ新米らしくて剣術とかあまり得意じゃねーって言うから、動き方とか剣筋とか教えてたんだよ。
そしたら、こないだあった剣術の稽古んときに騎士団長に成長を褒められたとか嬉しそうな顔で報告してくるから、俺も嬉しくてな」
話を聞くと、もちろん剣を持たせてはもらえないガイルは身振り手振りで教えるだけだったらしいけれど、それをこの二十日間毎日のようにしていたらしい。
もとから面倒見がいい部分は知っていたし、新米兵士との話は聞いていて微笑ましい。
「なんか、ガイルらしいね」と笑うと、苦笑いを返された。
「いや、俺も楽しいけど……なんか違う気がするんだよな。予想してたのと違う。もちろん、いい方向に違うからいいんだけど、そのうちに罠でもあるんじゃねーかなってたまに考える」
言いながら、ガイルが紅茶をズズッと飲む。
大きな手には白いカップは小さすぎるように思えた。