王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


面会のなかでガイルがこっそり渡してくれたメモによると、シオンさんは本当に第二騎士団の団長らしい。

仲良くなった見張りの兵士から聞いたって話だから、本当なんだろう。

それにしては権力を持っている気がするってガイルは言っていたし、私もそう思うけれど……国によって、どの立場の人がどれだけの権力を持つかは変わる。

身分や生まれよりも、実力重視のグランツ王国が、騎士団長に大きな権力を与えていてもおかしくない気がした。

王子に直接、進言できるんだから、相当なんだろう。


「このお花、可愛いですね……。明るくてお日様みたい」

中庭の一角。通路で区切られた花壇に咲き誇る花を見て、思わずしゃがむ。

緑色の細い茎が伸びた先、ついている花はそれぞれにひとつだけ。
白く細い花びらが囲い、中心は黄色い。どこかで見たことがある花だった。

絵に描いたような可愛らしい花に嬉しくなり眺めていると、隣にしゃがんだシオンさんが首を傾げる。

「たしかに可愛い花ではあるけど……でも、薔薇の方が華やかじゃない? 品もあるし」
「もちろん、薔薇も綺麗ですし好きですけど、高貴な印象が強くて近寄りがたいイメージがあるんです」
「言ってる意味は、なんとなくわかるけど」

そうは言いながらも不思議そうにしているシオンさんを見てから、花に視線を戻した。

「塔でたくさんの本を読んだんですけど、その中にお気に入りの話がありました。うさぎが主人公のお話で……そのうさぎは、こういうお花がたくさん咲いている野原でいつも過ごしてるんです。そしたらある日、その国の王子様が通りかかって……頭を撫でる優しい手に、うさぎは王子様に恋をするんです」

「待って。うさぎがうさぎのまま王子に恋するの?」

わからなそうに言ったシオンさんに笑いながらうなづく。


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