王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「はい。でも、それを不憫に思った月が、うさぎの願いを叶えて女の子にしてくれるんです。期限は次の満月まで。
自分があのうさぎだって言わないまま、王子がもしもその事実に気付いたらそのまま人間でいられるけど、気付かなかった場合は、うさぎに戻ってしまう」
表情のない、まん丸い月が〝約束ですよ〟と言うページを思い出す。
何度も何度も、ドキドキしながら読んだっけ。
「なるほど……人魚姫みたいな感じか。満月から満月までは、約30日くらいだっけ」
「はい。結末から言うと、王子はうさぎに気付くんです。ふたりで過ごす時の雰囲気とか、色々理由はあるんですけど……そのひとつにお花がありました。
女の子が髪飾りとして耳のあたりにつけていたお花が、うさぎがいた野原に咲いていたものだって気付いてから、王子は女の子にうさぎを重ねるようになるんです」
もう何度も読んだ本だから、話しているだけで頭のなかでページがめくれるみたいだった。
ガイルに恋の話を聞くようになったのも、この本がきっかけだ。
「その話に出てくるお花が、このお花にそっくりなんです」
そう言いながら、指先で花びらに触れる。
しっとりとしていて柔らかい花びらをそっと撫でていると、シオンさんが「そっか」と呟いた。
穏やかな声だった。
「この花、マーガレットっていうんだ」
「え……」
驚いて見ると、シオンさんが私を見て目を細める。