王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


しばらく、静かな時間が流れた。

いつもなにかしら話題を振ってくるシオンさんだけど、この人は私の気持ちをよく察してくれる。
思い出にふけりたいんだと思い、時間をくれているのかもしれない。

いつかガイルが、剣の腕が立つ人は、人間的にもよくできているって言っていたけれど……本当なのかもしれない。

流れる空気がとても優しかった。


「聞いてもいい?」

沈黙のあと、シオンさんが言った。
隣を見ると、私を見つめる瞳と目が合い……静かに告げられる。

「あの塔でのこと」

私が傷ついていないかを慎重に探っているような瞳に、ふっと笑い目を伏せる。

緩い風に揺れるマーガレットが、じゃれつくようにドレスに触っていた。

「いつか言ったとおりです。血筋をなにより大事にする国は、母と国王との子を公にはしたくなかった。
だからまるで隠すようにあの塔に閉じ込められて……いないものとして扱われました。透明人間、とでも言うんでしょうか」

あの塔にいる間は、存在していないように。そして、どうしても顔を合わせなければならない時は、嫌悪感の滲んだ眼差しを向けられた。

あんなに醜い瞳を、私は他に知らない。

「いないも同然だったから、母が亡くなっても誰も看取ってはくれなかった。私とガイルだけで……見送ったんです。国王が強引に手に入れたくせに……」

国王や国の勝手さ、非道さを思うと、膝を抱える手に自然と力がこもっていた。
ギュッと握られたドレスに深いシワが寄る。


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