王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「小さい頃から、母には、王族の血を引いている以上、国のために尽くさなければならないって言われてきました。それをずっと忘れたことはない。でも……母が亡くなったときからずっと、私は国や国王が憎くて堪らなかった……」
いつの間にか声は震えていた。
今までこんな話はしたことがない。口にしてはいけないことだと思っていたし、言葉にしたところで母が戻ってくることはないから。
でも……それが、ずっと胸の奥につかえて苦しかった。
不意に、膝を抱えていた手に、そっと大きな手が重なる。
ハッとして見ると、シオンさんが心配そうに私を見つめていて……慌てて口を開いた。
「すみません。今のは、忘れてください」
口にしていいことじゃなかった。
いくら、テネーブル王国がもう崩壊したとしても、どんなに理不尽だとしても。仮にも王族であった私が言っていいことじゃない。
気が緩んだのか、うっかり出てしまった言葉にどうしようと思っていると、そんな私にシオンさんが微笑む。
「なにを? なにか聞こえた気はするけど、クレアがあまりに綺麗で見とれてたからわからなかった」
あまりにおかしな誤魔化し方だったけど……シオンさんの優しさだってわかったから、私も笑みで返した。
「お母さんは、病気で?」
「はい。……最後、謝ってました。『ごめんね』って」
弱々しい声が、今も耳の中に響くようだった。
「小さな頃にも、謝られたことがあったんです。涙ながらに謝る母に、小さな私は理由もなにもわからなかったけど……今思うと、私の運命を思い謝っていたのかもしれません」
王家の血なんて継がせてしまって……という意味だったのかもしれない。