王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「母だって、被害者なのに。愛してなんかいない国王の子どもなのに、母は私を大事に育ててくれた。
それだけで充分だって、あのとき、母に言えていたらよかったんですけど」
ゆらゆらと揺れるマーガレットを見つめながら、ふっと笑みをこぼす。
足元にトントンと触れるマーガレットが、私を慰めてくれているみたいだった。
大丈夫。わかってる。
母が私にこんな事を後悔して欲しくないって思ってるくらい。
どんな時だって前を向いて自分の意思を持っていた母の瞳は、今でもちゃんと覚えている。
スッと立ち上がり、視線を空へと移す。
今日もそこに広がっている青空から空気をたくさんに吸い込むと、花の甘い香りに満たされる。
小さな窓から、自由に流れる雲をうらやましがっていたあの頃とはもう違う。
隣で同じように立ち上がったシオンさんを見上げ、笑顔を向けた。
「私の世界は、あの塔の部屋とそこから見える場所だけだった。だから……シオンさんにここに連れてこられて、初めてこんなに綺麗なものを見た気がします。聞いてはいましたが、とても広いんですね」
世界が広くて、それが未だに嬉しくて……空気の流れを肌で感じるために目を閉じる。
揺れる草花の音だけが響く世界はとても綺麗で、自分が今ここに立っているなんて信じられなかった。
母は、こういう世界を見せたいと、野原を自由に駆け回るうさぎのお姫様を描いたのだろうか。
ふと、まぶたの向こう側が暗くなる。
太陽が雲で隠れたんだろうかとそっと目を開け……目の前にいるシオンさんに驚く。
心臓が跳ねたところで、肩を抱かれそのままキスされる。
まるで上から降ってきたようなキスに一瞬、言葉を失ってから、シオンさんの胸を押した。