王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「そいつ、貴族に仕えてる騎士だって言ってたけど、それだけでも結構なステータスだろ。で、その上あの外見ってなったら、今まで見た目や地位目当てに近づいてきたヤツは相当だったんだろうな。本当に嫌そうだったから」
そこまで言ったガイルが、私をじっと見る。
「なに?」と首を傾げると、ふっと口元を緩められた。
「いや。おまえは、そういう愛情不信気味のヤツに好かれそうだと思ってさ。こんな場所で育ったから世間の汚れを知らねーし、なにより気持ちが真っ直ぐだから。
それに、身分とかそういうもんにも揺るがないし」
「……そんなことより、ガイルの話を聞かせてよ。ガイルの恋愛話」
いつもは言われないようなことを言われて、恥ずかしくなって顔をしかめると、ガイルが苦笑いを浮かべる。
「そうは言っても、俺は剣術にしか興味ねーしなぁ……。俺にばっか聞いてないで、おまえが経験すればいいだろ」
ドカッと椅子の背もたれによりかかりながら言われ、ため息をついてから視線を手元に移した。
今、縫っている刺繍は薔薇だ。
私自身は、もっと可愛らしい野花のような花が好きだけど、世間的には薔薇の方が人気が高いらしい。
針で赤い糸を布にくぐらせていく。
「恋愛なんて、私にはできないから聞いてるんでしょ」
「ここに幽閉されてるからか? だから俺が出してもらえるように話をつけてやるって言って……」
「そういう意味じゃない」
ぴしゃりと言い切ると、ガイルは不思議そうに私を見る。
赤茶色の瞳がじっと見てくるから、続けようとした言葉が喉の奥へと引っ込んでしまった。
言ったらきっと、悲しませてしまうから。
「だから……ほら、ガイルが言ったんでしょ。私のこと、頑固だとか意地っ張りとか」
別の言葉で誤魔化すと、ガイルは私が隠した言葉なんて気づきもしない様子で明るく笑う。
「なんだ、そんなこと気にしてんのか。大丈夫だって。おまえは確かに性格はちょっと意地っ張りで面倒くせー部分があるけど、悪いヤツじゃねーし、なにより顔は綺麗なんだから外出れば恋愛くらいいくらでもできる」
疑いもせずにそう笑うガイルに「だといいけど」と呆れて笑うと、ますます笑顔を返された。