王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「それは違います」
抱き締める腕を緩め、私と見つめ合うだけの距離をとったシオンさんに視線を合わせる。
自己嫌悪になのか、不安になのか、眉を下げているシオンさんから、目を逸らさずに口を開いた。
「テネーブル王国の国王は、ただ私利私欲のためにしか動かなかった。でもシオンさんは違う」
「……そうかな」とまだ自信なさそうに言うシオンさんに続けた。
「国王に虐げられてきた平民を救うために、自ら率先して行動を起こしたシオンさんは、暴君でもなんでもありません。テネーブル王国にとってはナイトそのものです。もちろん、私にとっても」
優しいシオンさんは、私のことを気にしてくれたんだろう。
母が描いてくれた本が燃えたなんて話をしたから、それを気にして不安になってくれたんだろう。
まったく……騎士団長なんて、時には残酷じゃなければいけないのに、優しすぎるのも考え物だ。
「足りないなら何度でも言います。私はこの国にもシオンさんにも、感謝しています」
じっと見上げていると、私の気持ちが伝わったのか、シオンさんがゆっくりと表情を緩める。
それから、もう一度私を抱き寄せた。
「クレアの新しい居場所は俺が作るから。もう少しだけ待ってて」
さっきとは違う、優しく柔らかい声にホッとする。
それから言葉の意味を考え、『もう少し』っていうのはグランツ王国の国王が戻るまでを言っているんだろうかと思った。
シオンさんもジュリアさんも、肝心なことは話してくれないからよくわからない。
だけど……。