王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「そうなんですね。私は晴れているとこうして散歩ができるから嬉しいですけど、そろそろ雨が降ったほうが自然にとってはいいかもしれないですね」
同意するように、ぴゅっと勢いよく風が吹き抜ける。
空には厚い雲が目立つし、そのうち雨になるのかもしれない。
雨を直接受けてみたいって言ったら、怒られるかな……怒られるだろうな。
「土地柄なのか、一気に天気が崩れることも多いから……今日なんか危ないよ。ほら、あのへん、雲の色が違うだろ。ああいうのの下はもう降ってるよ」
シオンさんが指さしたのは、すぐそこに見えるグレイの雲だった。
他の雲と高さが違うように見える。
「ああいうのが増えてきて、そのうちまとまった雨になる」
「そうなんですね」
花の種類を教えてもらうのも楽しいけれど、こうして空や天気のことを教わるのも楽しい。
私は知らないことが多いから、シオンさんは色んな話を教えてくれて、それが毎日の楽しみになっていた。
朝目が覚めると、今日はどんな話ができるだろうってワクワクして……そんな感情は生まれて初めてで、それに気付いて苦笑いがこぼれたのは数日前のことだ。
自分の置かれている立場を考えれば、ワクワクしている場合じゃないのに……呑気な頭だ。
シオンさんやジュリアさんが、〝悪いようにはしない〟〝心配する必要はない〟って呪文みたいに言い続けるから、洗脳されたんだろうか。
でも……おかげで、この先に待つ未来に不安を感じる時間は大きく減っていた。