王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


塔にいたときも、ここに移ってからも、ガイルは私のために色々考えてくれる。

もしも私がいなくなっても、ガイルは剣の腕も立つし、ここでの信頼もすでにある。
主とされている私がいなくなれば、グランツ王国で騎士として過ごせるだろう。

そうして、毎日笑っていられるような幸せな時間を過ごしてくれるといいなと思う。

前、教わった通りに指先で感覚を探り、音を聞く。

そして、わずかな音の違いと感覚を逃さずに針金を動かすと、カチャリと鍵が開いた音がしホッと胸を撫で下ろした。

音を立てないようにそっとドアを押すと、長く伸びた廊下には誰もいなかった。

暴動が起きてるんだし、城内もきっとバタバタしているんだろう。少しくらい大胆に動いても見つからないで外に出られるかもしれない。

とりあえず、中庭までの道はわかるから、そこまで人の気配に気を付けながら走る。

運動に慣れていない身体はすぐに文句を言うみたいに呼吸を乱したけれど、それも無視して中庭に向かった。

走りながら、一気に廊下が暗くなるからなにかと思い窓から外を見ると、分厚い雲が空を覆っていた。
シオンさんが言っていたとおり、そろそろ雨になるのかもしれない。

「は、ぁ……はぁ……っ」

心臓が痛い。

ドレスは裾がふんわりしていて走りにくいし、重みだってある。
どう考えても走るには向かない格好だけど、今さらそれを考えても仕方ないとただひたすらに目的地を目指した。

いつも、シオンさんとのんびり話しながらだと近くに感じた中庭は、こうしてひとりで走ってみると結構な距離があり、着いたころにはもう、息は切れていた。

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