王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
空気を吸い込むと喉と胸が痛む。肺も痛い。
自分の身に起きている深刻な運動不足を実感しながら、ふらつく足をまた進める。
中庭の端にある、柵のドアに向かって。
『あそこよじのぼって入った。兵士のひとがこの周りグルグルしてるから見つからないように気を付けて』
『柵のドアの近く、今、木の枝が伸びてるから。柵は登りにくいから、途中からは木に移った。でも、たぶんそのうちあの枝切られちゃうからそうなるともう登れなくなっちゃうけど』
あの時、男の子は登れたって言っていた。
木の枝が切られていないのは、さっきジュリアさんとここから離れるときに確認済みだ。
ただ、危惧されるのは衛兵だけど……正門前で暴動が起きていれば、そちらに回っているかもしれない。
それに賭けるしかない。
中庭は遮るものがないから、王宮内の窓から丸見えになる。
だから、中庭の端を一気に走り抜ける。
色とりどりの花が咲いているっていうのに、目もくれずにただひたすら柵のドアを目指す。
雨はまだギリギリのところで降っていないけれど、じっとりと肌にまとわりつくような空気が、呼吸の邪魔をした。
身体的なものももちろんあるけれど、見つかるんじゃないかっていう緊張からも酷使されている心臓が悲鳴をあげていた。
喉に空気が貼りつくようで、軽くせき込んでしまう。
「は……っ、は、ぁ……っ」
ジュリアさんとガイルは、もう部屋に戻る頃だろうか。
もう、気付いただろうか。私がいないことに。
だとしたら、もう時間がない。見つかる前にどうにかしてここを出ないと……っ。
柵のドアの前までなんとか走り終わり、柵に手をついて呼吸を整える。
こんなに息が切れたことは初めてで、酸欠からか頭がフラフラしていた。