王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「気持ち、悪い……」
吐気とは違う気持ち悪さが襲いかかり、しゃがみ込みたくなる衝動に襲われる。
地面がグラグラと揺れているみたいに、足元がおぼつかない。
でも……ここで休んだらもう立てないかもしれない。
目線をあげ、大きく空気を吸い込んだところで、隣に立っている木に手をかけた。
「よいしょ……っと……」
木登りなんて生まれて初めてだ。
それでも、なんとか枝に手をかけ足をかけ、不格好にだけど登っていく。
低い位置から枝があってよかった。
栄養が充分だからか、太い枝がたくさんあるから、枝と枝の距離がそこまで離れていない。
王宮から人が出てこないかを何度か確認しながらも、どうにか塀の高さまでを登り切る。
そして、枝から塀に足をつけ……そこで初めて高さに意識がいった。
登るのに必死で下なんて見なかったけれど、こうして塀から下を見ると……結構ある。
二メートル以上はありそうだった。
「どうやっておりよう……」
一気に飛び降りるのはさすがに怖い。
でも、だからと言って他の出口を探す時間なんてないし、今はいないけれど衛兵だって見回りにくるだろう。
迷ってる時間なんてない……と再度自分に言い聞かせる。
「……よし」
自分を奮い立たせるように片手で頬を叩き、顔を上げる。
それから、塀の外まで伸びている枝に両手でつかまった。
正直、枝は先にいくほど細くなっているし、ぶらさがっても私の体重を支えてくれるかどうか不安はあった。
それでもこれ以外に方法はないんだから仕方ない……と思い切って塀から足を離すと、枝は私の重みにしなり、そしてミシミシと音を立てゆっくりと折れる。
腕にかかる重みが消えたと感じた次の瞬間、ガ……ッと鈍い振動みたいな痛みが身体を突き上げた。