王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない


「……ひゃっ」

地面に落ちた衝撃でもれた声に自分で驚き、両手で口を塞ぐ。

周りを見たけれど、辺りはがらんとしていて、衛兵の姿もなかった。

お城の周りは、大きく開かれた土地になっていて、家もお店も何もない。
たぶん、見通しをよくして侵入者を防ぐためなんだろう。テネーブル王国もたしかそうだった気がする。

とりあえず、壁の近くを歩けばどこか高い場所に見張りがいても、見つからないはずだ。

そこまで考えてから、少し安心して……未だに激しく切れている息と、膝の痛みに気付いた。

ドッドッドと心臓はうるさいほどに鳴り響いていて、その大きさに自分でも戸惑いながら膝を見下ろすと、ドレスのその部分が汚れ布が切れていた。

たぶん、落ちたときに打ったりしたんだろうけれど、そんな痛みに気をとられている場合じゃないとすぐに立ち上がり、声のする方向を向かって足を踏み出す。

グランツ王国は、たしか街よりも少し高い位置にお城を建てていたはずだ。
そこから一本の広い階段が伸びて正門に繋がっていた。

そこで暴動が起きているんだろう。

急がないとと思い、走り出そうとしたときだった。
塀の角を曲がってきた数人の大人とひとりの男の子の姿が目に映る。

ギクリとしたけれど……どうやら衛兵ではないようだった。
国民同士の内輪もめだろうか……。

大人たちに囲まれた男の子の明るい茶色の短髪が、雨の中でも目立っていた。
緑色の大きな瞳がしっかりと意思を持ち、大人たちを睨みつけている。

男の人たちは、小さな男の子の服の襟を掴み、お城の塀にその子を押し付けた。
その衝撃で、男の子の顔が歪む。


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