王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「こいつ、嘘ばっか言いやがって」
「嘘じゃない! あの塔にいたお姉ちゃんなら優しい人だったっ。俺、たくさんパンもらったし、見たことだってある! 俺の言ってることが本当だっ」
大きな大人の男の人に囲まれているのに、ひるまずにそう叫ぶ男の子に、目を見開く。
あの……塔の男の子だ――。
「だいたいっ、そっちこそ誰もお姉ちゃんのこと知らないくせに、責めることばっか言ってんじゃねーよ! 噂信じて馬鹿じゃねーの!」
威勢よく食ってかかる男の子に、男の人たちの顔が歪む。
「こいつ……」と静かに振り上げられた拳を見て、とっさに足を踏み出していた。
「やめてください……っ! こんな子どもに大勢で……大人のすることじゃないでしょう!」
男の子を掴んでいた男の人の腕にしがみつき言うと、大人たちの視線が私を捕らえる。
戸惑っているような目だった。
「本来、大人は子どもを守ってあげるべき存在です。それなのにこんな風に責め寄るなんて、恥ずかしくないんですか?」
男の子から手を離させ背中で庇う。
背中側から「お姉……」と声が聞こえて、途中で途切れた。
たぶんこの子は私に気付いたんだろう。
でも、ここで私を呼ぶとこの人たちにバレてしまうから黙ったんだ。
賢い子だな、とふっと笑みがこぼれる。
賢くて、いい子だ。こんな子を痛い目を遭わせるなんて……と、目の前で、私が誰かわからずに困惑している様子の男の人たちをキッと睨みつけた。