王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
「やめろよ! 女相手に大勢でなんて卑怯だろっ」
今までぼんやりしていた耳がしっかりとその声を拾い、ハッとする。
「テネーブル王国の王族はひどいヤツらだったかもしれない! でも、この人は違う! なにも知らないくせに傷つけるようなこと言うなっ! なんでもかんでも王族ってくくって考えることしかできねーのかよ」
男の子の迷いのない声に、震えていた手をぎゅっと握りしめる。
ダメだ……ダメだ。怖がってちゃ。
これはテネーブル王国の問題で、王族の血を引く私の責任なんだから……ダメだ。
「この……っ」と再び振り上げられた拳から守るように男の子を抱き締めると、次の瞬間、頭がガ……っと強い衝撃に揺すぶられた。
痛みで殴られたことを知ったけれど、もう動揺はなかった。
「お姉ちゃんっ、血が……っ」
「……ん。大丈夫だから心配しないで。ごめんね、私のせいで……」
雨脚は強まり、もう髪もドレスもびしょびしょだった。水分を含んだドレスが重たい。
「なんだよ。子どもは庇うのかよ。俺たちにはなんにもしてくれなかったくせに」
冷たくなった身体に、言葉が刺さるみたいだった。
「ごめんなさい……」
「謝ってすむことじゃねぇっ!」と、また振り上げられた腕に気付いて、男の子を抱き締める。
……だけど、しばらくしても覚悟していた痛みは落ちてこなくて。
恐る恐る後ろを見ると、そこには立ちつくす男の人たちと……剣を抜いたシオンさんの姿があった。