王太子殿下は囚われ姫を愛したくてたまらない
剣先を男の人たちに向けたシオンさんの瞳には温度がなく、ぞくりとしたものが背中を走る。
さっき男の人に感じていた以上の恐怖が場に張りつめ、声を出すことさえできなかった。
本降りになった雨なんて気にしない様子で、シオンさんが口を開く。
「この子は、グランツ王国第一王子、シド・エタンセルの婚約者だ。今のはそれをわかった上での暴行か?」
その言葉に、男の人たちの顔色が変わったのがわかった。
「あ……革命のとき、指揮してた……」
ひとりの人がそう、震える声で言うと、シオンさんが無表情のまま答える。
「そう。善意で協力したのにそれを仇で返されるとは思わなかった」
ピリッとした緊張感のなか、別の人が慌てたように言う。
「申し訳ありません……! どうやら人違いしてしまったようで……っ」
「俺たちは、テネーブル王国がいい方向にかじ取りできるよう、力を貸した。そして問題とされていたモノの排除には成功し、今、おまえたちを抑えつけるものはないはずだ。これ以上、なにを求める」
シオンさんがピシャリと言った言葉に、男の人たちは「……いえ」とだけ小さく首を振り、黙る。
「過去にとらわれずこれからを生きられるようにという意思のもと、恨みつらみはあの時、城と一緒に燃やしたはずだ。違うか?」
「……いえ。その通りです」
「国がこれからどうなるかの大事なときに、そこに尽力できないのなら問題だ。おまえたちの責任者をあとで城によこせ」
冷たく響いた言葉に、男の人たちも私も、ただ呆然とすることしかできなかった。