久遠の絆
ナイルターシャは本当のお茶の時間のように、ゆったりとカップを口に運んでいる。


それをあとの二人はじっくり待つつもりらしい。


彼女が話す気にならなければどうしようもないのだから、そうするより仕方なかった。


頭の重さが薄れ、蘭も次第に部屋のしつらえに気を向けられるくらいになっていった。


飾り気のない、必要最低限の物だけが置いてある部屋だった。


一杯目のお茶を飲み終え、また急須を傾けながら、ナイルターシャがようやく重い腰を上げたようだ。


「さて、何から話そうかね」

と思案げに小首を傾げてから、

「あんたには辛い思いをさせたね」

と蘭を見た。


見つめられた蘭はどう返したらいいのか分からず、戸惑い気味に俯いた。


「それもこれも、神官どもを欺(アザム)くためさ」


「欺く?それはいったい?」


彼女は神殿に庇護されてきた存在であり、神官は彼女にとって同じ道を歩く、言わば同胞のようなものではないのだろうか。


「神官どもは私を利用し、私も彼らを利用する。ずっとそんな関係だった」


「……」


「神官どもにとっては、私がいると、いざと言うときに“神”を引っ張り出すのに都合がいいからね。
なんと言っても私は、伝説の巫女姫だからさ」


そしてナイルターシャはふっと自嘲的に微笑んだ。


「こんな風に国が瓦解しそうな時には、神こそが人々の救いになる。祈ることで人々は精神の安寧を求め、巫女が聞いた神の声に救われたような気になるのさ」


それは歴史が物語っている。


いつの世も、死に瀕した時、人が最後に縋るのは神だった。


「巫女というのは、そんな役割だよ。感謝されこそすれ、けっして表舞台に立つことはない。
それに私は馬鹿みたいに長生きもしてしまった。この空間でないと生きられやしないのに……」


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