久遠の絆
「ああ、そうだ、それがあった。いやだねえ。年取るとほんと、物忘れが激しくなっちゃって」


それはそういうこともあるかもしれない。


外見こそ若く美しい彼女だったが、幾世紀を越えて生きてきた人なのだ。


「そうだねえ。本当は妹のところにすぐにでも行ったらいいんだろうが、外は戦火の只中。そしてあんたは神に召されたことになっている」


そう言えばそうだった。


あまりに一度にいろんなことが起きたため、今が戦時中であることをすっかり失念していた蘭だった。


「どうだい?しばらくはここにいて、少しゆっくり考える時間を持つっていうのは?」


それは蘭に向けた問いではなく、カイルに向けられたものだった。


そうカイルとて前線のことを考えなくてはならない立場だ。


蘭にばかり構ってはいられないはず。


カイルはシェイルナータから視線を外し、蘭のほうへと視線を移した。


そしてしばらく何も言わず蘭を見つめた。


見つめられている当の本人は、カイルにまともに視線を合わされ、顔を赤くしたり、き
ょときょとしたりとかなり挙動不審になっている。


(だって、その瞳にわたし弱いんだよ~)


憂いを含んだ瞳はいつにも増して妙に色っぽいのだ。


そんな挙動不審な彼女を、今度は不思議そうにさらに凝視してくる。


(うわ~ん)


なんだか泣きそうだ。


「はいはい、いちゃいちゃするのはそこまでだ」


見てらんないとでも言いたげに、シェイルナータが横槍を入れた。


「い、いちゃいちゃなんかしてませんっ」


「おや、そうかい?私にはどう見ても恋人同士が見つめ合ってるようにしか見えなかったけどね」


「ここここ恋人同士?そんなことあるわけないじゃないですかっ!」


< 136 / 810 >

この作品をシェア

pagetop