久遠の絆
「あの人が君を呼んでいる」


「マトは……」


蘭の疑問を汲み取るように、茂みの向こうに鋭い視線を注ぎながら彼は言った。


「俺は幼い頃からあの人の家に出入りしてて、その頃は普通の村のばあちゃんだと思っていたんだけど、最近になって真実を教えてもらったんだ。
そしてガルーダの侵攻の本当の意味も」


「本当の、意味?」


「そう。奴らは」


言いかけてマトは言葉を切った。


そして蘭の手を取り走り出したのだ。


突然のことに蘭の足は絡まり、思うように走れない。


「ごめん。説明は後だ。奴らが来る!」


「えっ?」


つんのめりながら後ろを振り返った。


ザッザッと茂みを掻き分ける音がしている。


先程の銃を持つ兵士の姿が頭に浮かんだ。


きゅーんと腹の底から恐怖が湧き上がる。


歯を食いしばって走った。


走って走って、木の枝でみみずばれを作っても厭うこともせず懸命に走った。


兵達がどこまで追いついて来ているのか、皆目見当が付かない。


恐怖だけが先走る。


マトの背中だけが頼りとばかりに、蘭は前だけを見て足を動かしていた。


そうしているうちに、ばっと視界が開けた。


ジャングルがそこだけ切り取られたかのように、丸く樹木の生えていない広場になっていた。


蘭たちのいる所の反対側には、大きな一枚岩がどんと横たわっている。


そこでマトが立ち止まった。


辺りを窺うように視線を走らせている。

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