久遠の絆
「あ、マト、あれ」


咄嗟に燃えてむき出しになった柱の陰に隠れた。


その少し先に、一ヶ所に集められた村人達がいたのだ。


それを囲むように兵士が等間隔で並び、そして、あの漆黒の青年が立っていた。


「シド・フォーン」


マトが憎々しげに言い放った。


「知ってるの?」


囁き声で尋ねる。


「ガルーダのシド・フォーンは有名だよ」


帝国の裏切り者でもあるのだから。


「そっか」


先程木陰から覗き見た時よりも、彼までの距離は近い。


シド・フォーンがよく見えた。


肩よりも長い髪も、その瞳も漆黒。


身に着けている軍服も漆黒だった。


そしてカイルとはまた違うタイプの美貌の持ち主だった。


「ナイルターシャさまが……」


漆黒の青年の目の前に座っているのが、ナイルターシャ?


シェイルナータとは違い、たしかに老女の姿をしていた。


「あれが、ナイルターシャさま……」


シド・フォーンに何を言われようと動じないで、相手をキッと睨み付けている。


「マト、どうしよう」


意気揚々と走って来たのはいいが、ナイルターシャ奪還のために特にプランがあるわけではなかった。


「あいつら、何をどうするつもりなんだ?」


マトはマトで、シド・フォーンの意図をはかりかねている。


その時それまで静かだった村人がざわめいた。


どうした?と目を凝らすまでもなく、シドがナイルターシャの手を取り立ち上がらせたのだ。


「汚ねえ手で触んなよ」


マトが怒気もあらわにそう吐き捨てると、今にも飛び出して行きそうに身構えた。


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