久遠の絆
蘭の部屋を後にしたヘラルドは、その足で司令官室へと赴いた。


彼の主は、ちょうど仮眠から目覚めたところのようだった。


しどけない姿のまま、ぶどう酒を口に運んでいた。


いつものかっちりとした軍服を脱ぎ捨て、白いシャツ一枚になって、胸元を大きく開いている。


シドがそんな無防備な姿を見せるのは、ヘラルドだけだ。


「少しはお疲れが取れましたか?」


「このくらい寝られたら十分だ」


普段から睡眠時間の乏しい主だった。


倒れないのが不思議なくらいの。


政務に忙殺されている。


しかしその方が彼の性には合っているのだろう。


「すべて順調に行っております。『高密度粒子砲』によって、帝国軍は前線から目を離
すことができなくなった。
我々の船は障害なく、海を越えることが出来るでしょう」


「けっこう。全て計画通り、だな」


「はい」


「いや、計画以上だ。
当初『伝説の巫女姫』のみ手に入れる予定だったが、思わぬことから『瑠璃の巫女』まで手に入った」


「はい。先程彼女と面会し、その指に確かに瑠璃の指輪がはめられているのを確認致しました」


「抜かりないな」


「ありがとうございます」


するとシドはグラスを目の前に掲げた。


そして「神は我に味方せり、か?」と祈るような素振りを見せた。


しかし彼は無神論者だ。


彼が信じるものは、己と傍らにいる腹心の部下だけ。


あとは計画を推進していくために必要な手駒に過ぎない。


兵も、巫女も、神でさえ。
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