久遠の絆
海は凪いでいる。


ゆったりと、午後の陽光をはね返しながら護岸に寄せる波。


人間の世界で起こっていることなど関係なく、波はただ穏やかだった。


その国は明るい光で満ちていた。


行き交う人々の表情は皆朗らかで、憂いがない。


それは南の太陽のなせる業なのか。


まだ出来て年月の経たない新しい国だからか。


北にある帝国とは、雰囲気のまったく違う国だった。


その街の中心にある白亜の建物。


その建物の一室に、彼女はいた。


与えられた部屋は二階で、その窓辺から見える海をぼんやりと眺めていた。


透き通るような美しい海。


しかしそれに癒されることはない。


その波の穏やかさとは裏腹に、彼女の心は重く淀んでいた。


ここに連れて来られてから、早半月が経とうとしている。


けれど事態に進展は見られない。


前線における戦闘はひとまず小休止という状態らしいが、同盟軍がそこから撤退したと
いう話はなく、いまだ両軍は睨み合ったままだという。


停戦に向けての首脳レベルでの話し合いが続いているのだ。


ということを、時折尋ねてくるあの隻眼の男に聞かされていた。


蘭はただ聞くだけだ。


聞いたところで、彼女に何が出来るわけでもないのだから。


彼女は監禁されている身だった。


この部屋の中での自由は許されている。


しかしそれ以外は制限だらけだ。


一歩部屋の外に出れば、監視者としての侍女が付きまとう。


ならば監視されない部屋にいたほうがまだマシだった。

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