久遠の絆
それを悟った彼女は、ここ何日か部屋から出ようとはしなくなっていた。


(眺めがいいから……)


だから退屈ではない。


でも。


(わたしはどうしてここにいるんだろう)


ナイルターシャの代わりにシド・フォーンに連れて来られたけれど、“捕虜”であるなら、こんなにいい部屋をあてがう必要などないはずだった。


扱いが良過ぎるのだ。



ふー



長い溜息をついて、窓辺を離れた。


それと同時に海からのそよ風が吹いてきて、彼女の着物をふわりとはためかした。


帝国で身に着けていた、かっちりとしたドレスとは違う。


ここでは体を締め付けない、ゆったりとした衣が好まれているらしい。


言うなれば、ネグリジェのようなドレスだった。


調度類も決して華美ではなかった。


むしろ素朴な、オリエンタルな雰囲気が漂う。


(東南アジアにいるみたい)

だと、常々蘭は感じていた。


そんなこの国の、風俗であるとか文化であるとかは嫌いではない。


帝国にいる時に感じていた息苦しさというものを、彼女は不思議と感じなかった。


それは、この身に馴染んだ雰囲気のおかげなのだろう。


西洋風な文化の帝国とは何もかも正反対であるらしい。


(それは、もしかすると意図的なのかも)

と思わないでもない。


この国のトップであるシド・フォーンは帝国を捨て、今やその母国を滅ぼそうとしているのだ。


自分の創ったこの国を帝国と同じようにするとは思えなかった。


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