久遠の絆
まだやりたいことをひとつもクリアしていないのだ。


たしかに休める場所があってもいい、と思った。


「無論、お気に召した女中などおられましたら、お連れになってもかまいませんよ」

と言う部下に、シドは呆れたような視線を返した。


「だから、お前と一緒にするなって言うんだ」













おそらく、ヘラルドはシドが記憶をなくしている間にここに連れてきているのだ。


前日は確かに屋敷の執務室にいたはずなのに、ということがよくあった。


それでも詳しいことをシドは聞かないし、ヘラルドも言わなかった。


聞けば、言えば、総帥としてのシドは消えてしまう。


お互いにそんな風に思っていた。











「厄介なモノを背負ってしまったな」


階下に下りてコーヒーを入れながら、シドは無意識に呟いていた。


もうすぐヘラルドがやってくる。


何事もなかったように、彼にしては柔和な笑みをたたえながら。


そしてシドも、憂いなど微塵も感じさせずに執務へと戻るのだ。


救いがあるとすれば、それは目的を達することだけ。


帝国を潰し、自らの理想の国を造る。


それが果たされたときのみ、この憂いは払拭される。


だから、前だけを見続ける。


自分の中に、どんな秘密が隠されていても。




空になったカップをカウンターに置いた時、玄関の扉が静かに開かれた。


「おはよう、ヘラルド」


総帥の顔に戻ったシドには、憂いなど少しも感じられない。


そうやってお互いを騙しながら、共通の目的に向かっていた。


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