久遠の絆
「あなたのこれまでを聞いただけで、あなたのすべてが分かるとは思わない。でも、でも、わたしも肉親に恵まれなかったから……」


そう言うと、蘭は視線を落とした。


その視線の先には、手首の傷。


指輪の点滅が気になって包帯を外して以来、気忙しさに取り紛れてもう一度巻き直すのを忘れていた。


その隠し続けてきた傷を、蘭はシドに見えるようにぐいっと突き出したのだ。


手首に走る無数の傷を見て眉をひそめるシドに、蘭は凛とした声で言った。


「わたしは親から虐待を受けてきました」


「なっ……」


「実の母は早くに亡くなって、父が再婚した辺りから、わたしは父に……父に、体を求められるようになって……」


「……」


「そして再婚相手からは殴られました。どうして生まれてきたのか、何のために生きてるのか。分からなくなって、自分を傷つけたんです。酷い仕打ちを受ける度に」


言葉なく自分を見つめるシドを、蘭は思ったよりも静かな気持ちで見返していた。


今まで誰にも、カイルにも言えなかった父親からの虐待のことをシドに話たのは、隠し事があってはシドに伝わらないと思ったからだった。


同じように身内に虐げられていたシドなら受け止めてくれると思ったから。


涙は見せない。


同情されたいわけではないから。


ただシドに心を開いてほしいから。


自分の気持ちが伝わるように、蘭は彼を見つめ続けていた。


「それで、俺とお前とは同じだと?」


ややしてシドがそう言った。


その声は暗く、重い。


「シドさんも胸に秘めてることがありますよね?カイゼライトさんに聞いた」


シドは背もたれから身を起こすと、膝の上で両手を組み、そこに頭を持たせかけた。


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