久遠の絆
沈黙が二人の間に落ちる。


蘭はシドが次に発する言葉を待ち、シドは次に言うべき言葉を探していた。


長い長い沈黙。


気付けば、時計の針の音だけが室内に響いている。


「俺は……憎かったわけじゃない」


その音を遮るようにシドが言った。


「ただ、俺という存在を認めてほしかっただけだ。庶子である俺を家族だと、ただそう言って欲しかった……」


それはシドが隠し続けてきた、彼の弱い部分。


決して表に出そうとしなかったそれを、彼は今吐き出そうとしていた。


蘭の気持ちが伝わったからだろうか。


いや。


むしろ彼自身がその心情を吐露する機会を待っていた。


蘭はそんな風に感じていた。


「兄が……カイゼライトが国を出たと知ったとき、すべては俺のせいなのだと思った。だがもう引き返せない。ガルーダはやっと軌道に乗り始め、帝国へ宣戦布告したところだったからだ。
……自分を責めても、理想の国を作るという気持ちに変わりはない。たとえ親兄弟を敵に回しても、俺はやり遂げなくてはいけないんだ。俺を信じてついてくる者たちのために……」


その告白はシド個人の気持ちと、ガルーダの総帥としての気持ちとの間で揺れ動く、彼の心情を如実に表しているものだった。


蘭は痛む胸を押さえた。


信念を貫くと言っておきながら、彼からはどうしてこんなにも悲愴な感じしか受けないんだろう。


目的を見出しながら、それでも迷い子のように泣いて彷徨っているようにしか見えない。


彼はやはり孤独なのだ。


(もしかしたら、わたし以上に……)



だったらやっぱりその孤独から引っ張り上げてあげたい。


「シドさん、理想の国を作るという志を捨てなくても、カイゼライトさんや帝国の人たちと共に歩む道はあるはずです」


「……」


彼は、蘭のその言葉に驚愕したように目を見開いた。


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