久遠の絆
「カイゼライトさんが心配してるのはそのことなんです。ヘラルドさんが隠し続けてること」


そう言うとシドはスッと視線を外した。


「シドさんの中には、シドさんの他にもうひとつ人格が……」


「それをヘラルドが隠していると?」


彼の苦しげな表情に、蘭の胸も痛くなる。


「はい。現に、さっきまでわたし、そのもうひとつの人格と朝食を取っていたんです」


「……」


何かを考え込むように一点を見つめ続けるシドを、蘭は心配になった。


あまりにも儚げで、今にもくず折れてしまいそうなシド。


「あ、あの……大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ」


彼は一点を見つめたまま呟くように言った。


意識ははっきりしているらしい。


(ど、どうしよう。やっぱり言わないほうが良かった?)


しかし焦る蘭を余所に、その時当のシドは反対に冷静に分析していたのだ。


顔を戻したシドの表情は穏やかで、かえって蘭の方が拍子抜けするほどだった。


「そう言われて納得することは多々ある。俺が疑問に思っていたことも合点がいくしね。やはりヘラルドが隠していたんだな」


「……ヘラルドさんを怒りますか?」


「何故?ヘラルドにはヘラルドの思惑があってのことだろう。それについて俺が言及することはない。だが、やはり今の状態を続けていくわけにはいかないからな。俺は俺のやるべきことをするだけだ」


やはりシド・フォーンは強い人なのだと蘭は思う。


人格が変わるなんて、もし自分が聞けばきっとパニックになってしまうだろう。


でも彼はそうではなかった。


冷静に受け止め、前向きに対処していこうとしている。


シドはおそらく大丈夫だ。


きっと立ち直れる。


蘭は彼に学んだような気持ちになっていた。

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