久遠の絆
「馬鹿なっ!帝国と停戦協定を結ぶですって?」


執務室に怒号が響いた。


「作戦は順調に進み、あとは首都を陥落するのみとなっているのですよ?!」


隻眼の男が頭を抱えながら、わけが分からないとでも言うように首を振った。


「少し考える時間が欲しいんだ」


漆黒の青年の言葉に、彼はまたきっとなった。


「今更何を考えるというのです?我々の目的があと少しで達成されるというこの時にっ!先日の同盟軍全体会議においても、このまま攻撃を継続するということで一致したのです。総帥にもご報告致しましたよね?」


「ヘラルド」


シドの凛とした声に、無意識にヘラルドの背筋が伸びる。


「俺には考える時間が必要なんだ。停戦も含め、調整することも考えておいてくれ」


「……っ」


ヘラルドは何か言いかけたが止め、くるりと踵を返した。


しかし部屋を出るところになって振り返り、

「私が留守の間に何があったのです?」

と訊いた。


それは質問ではなく詰問だった。


自分の知らないところでシドに何かあったのだとすれば、それを許しておくことはできない。


しかしシドはただ「何もない」と言っただけで、手元の書類に目を落としてしまった。


その時ヘラルドの口元が妙な形に歪んだことに、シドは気付かなかった。


「そうですか。ならば良いのですが……」


一礼して出て行くと、パタリと閉めたドアを背にヘラルドは、

「調べなくてはならないな……」

と呟き、まるですでに目的を定めたかのような足取りで歩き始めたのだった。







ヘラルドが出て行ったドアを見やりながらシドは、側近の、今まで見過ごしてきた”腹の底に隠している思惑”というものを感じていた。


「ヘラルド。何を考えている?」
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