久遠の絆
(あ、来てる)
蘭はその気配だけで気付いた。
あいつが来ている。
彼女が弱っているのを察知して現われたのか。
ゆっくりと、しかし確実に、彼女へと近付いている。
少し警戒しているのか、ときどき蘭の様子を窺うように止まってはゆらゆらと蠢いている。
実体の伴わない、黒い影。
禍々しい化け物。
しかし蘭はそれを、恐怖よりもむしろ、とても懐かしいものに感じていた。
(馬鹿げてる……)
そうは思うものの、この影の正体を知っている彼女には、これがこの世界で唯一あちらの自分の世界を思い出すことのできる縁(よすが)だった。
この世界にいることが苦しい今は、こんなものでも懐かしくなるのだ。
「久しぶりだね」
おっとりと頭を巡らし、か細い声で黒い影に声をかけた。
すると見る間に影が実態を帯び始めた。
徐々にではない。
本当にあっという間だった。
力を得たように、それは見慣れた『父』の姿に変わっていった。
「ラン……」
くぐもったその声は、喜悦の色を帯びていた。
「やっと、私を認めてくれたね。それでいいんだ。それで……」
他者が聞けばおののくような声だったにもかかわらず、蘭は微笑んでいた。
「私のかわいいラン……」
それは蘭の上に覆い被さった。
しかし蘭は抵抗することなく、全身の力を抜いてしまっている。
それをどうとらえたのか。
『父』は彼女の滑らかな頬に軽く口づけすると、そのまま首筋へと舌を這わせていった。
蘭はその気配だけで気付いた。
あいつが来ている。
彼女が弱っているのを察知して現われたのか。
ゆっくりと、しかし確実に、彼女へと近付いている。
少し警戒しているのか、ときどき蘭の様子を窺うように止まってはゆらゆらと蠢いている。
実体の伴わない、黒い影。
禍々しい化け物。
しかし蘭はそれを、恐怖よりもむしろ、とても懐かしいものに感じていた。
(馬鹿げてる……)
そうは思うものの、この影の正体を知っている彼女には、これがこの世界で唯一あちらの自分の世界を思い出すことのできる縁(よすが)だった。
この世界にいることが苦しい今は、こんなものでも懐かしくなるのだ。
「久しぶりだね」
おっとりと頭を巡らし、か細い声で黒い影に声をかけた。
すると見る間に影が実態を帯び始めた。
徐々にではない。
本当にあっという間だった。
力を得たように、それは見慣れた『父』の姿に変わっていった。
「ラン……」
くぐもったその声は、喜悦の色を帯びていた。
「やっと、私を認めてくれたね。それでいいんだ。それで……」
他者が聞けばおののくような声だったにもかかわらず、蘭は微笑んでいた。
「私のかわいいラン……」
それは蘭の上に覆い被さった。
しかし蘭は抵抗することなく、全身の力を抜いてしまっている。
それをどうとらえたのか。
『父』は彼女の滑らかな頬に軽く口づけすると、そのまま首筋へと舌を這わせていった。