久遠の絆
ソファにゆったりと腰掛け、ティーカップを口に運ぶ仕草だけでどきどきする。


その姿をずっと見ていたくて見つめていると、不意に彼が視線を上げる。


その宝石のような瞳をまともに向けられ、心臓がピョコンと跳ねる。


(体に悪いな……)


だから蘭は、たまに来てくれるだけでも良かったのだ。


女官達はそうでもなさそうだけど。


カイルのいない時の屋敷は閑散としていた。


でも、この静けさが蘭には心地良い。


あちらの世界のことなど思い出すこともなく、この穏やかな自由を満喫しているのだった。


誰の干渉も、束縛も受けない、自由。


(ここでは、わたしはわたしでいられる)


屋敷の庭を散歩しながら、蘭は一人の“とき”を楽しんでいた。


(煩わしい人間関係も、気を遣う厄介事もここにはない)


一輪の花を手に取った。


それを目の高さに持ち上げると、皇帝のいる宮城の尖塔が木立の間に見えた。


(遠いねえ)


ここと城の間には広い森がどっしりと横たわっていた。


おとなうものもいない静かな毎日。


前線の激しい戦闘など、ここではどこ吹く風だった。


次々に花を摘み束にしていきながら、蘭は王女にでもなったような気分でいた。


世話をしてくれる侍女達も、箸より重たいものは持たせないほどのかしずきようだった。


偽りの平和な時間だということはわかっている。


でもそれでも嬉しい。


今までが幸せではなかったから。


(こんなこと二度とないかもしれないから満喫しとかなきゃ)


腕いっぱいになった花束を抱えて小道を通って屋敷に戻っていると、こちらに歩いてくる人影に気が付いた。


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