久遠の絆
けれど蘭はその気遣いを疎ましく感じていた。


泣くのを止めると起き上がり、布を差し出すおじさんの手をばっと払った。


布は部屋の壁まで飛んで行った。


目を見張るおじさんに蘭は「うっとうしいんだよ」と罵声を浴びせた。


「わたしはいらない人間なんだ!役に立たない人間なんだよっ!
そんなわたしに優しくしてどうするっていうの?優しくしないでよ!
あのまま死なせてくれてたら良かったんだっ!!」


今まで溜めていたものが一気に溢れた、血を吐くような叫びだった。


見ず知らずのおじさんに浴びせていい言葉ではなかった。


けれど今の蘭にはそんなこと関係ない。


頭に血が上っていて、誰でも構わず当たり散らしたい気分だった。


「嬢ちゃん……辛い思いをしたんだな」


呆然と蘭を見返していたおじさんがぽつりと言った。


蘭は俯いたまま、口元を強く引き結んでいる。


「じゃけどな、何があっても死にたいなんて言っちゃだめだ。生きなきゃ。生きてなきゃ。命は一度なくしたら、終わりなんだよ」


蘭は否定するようにかぶりを振った。


「嬢ちゃん……」


おじさんは困り果てたように深い溜め息をついた。


「まあな。若い女の子がこんな雪山にひとりいたってだけでも大変なことじゃけ。よっぽどのことがあったんだろうとは思うよ。
でもな。嬢ちゃん、ここで死んじまったら負けだぞ」


蘭の表情が少し動いた。


「そう、負けだ。嬢ちゃんを死にたくなるような目に合わせた奴に負けちまうぞ」


悔しくないかい?


そいつを見返すことなく命を落としたら、悔しいだろう?


「……く……やし……い……」


蘭は搾り出すように言った。


「そうだよ。悔しいよ。だったら生きていよう。生きて、生きて、そいつに仕返ししてやるんじゃ」


蘭は掛け物をギュッと握り締めた。


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